技術戦略の立て方

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この記事は GRIPHONE Advent Calendar 2020 1日目の記事です。

CTOの川村です。今回は技術戦略の立て方について書きたいと思います。

弊社では定期的に数年後を見据えた技術戦略を立てる機会を設けています。数年前にスタートした取り組みですが、最初はどのように戦略を立てれば良いのかが分からず苦労しました。これまでの経験を踏まえ、どのような手順で考えていけば良いのかまとめてみたいと思います。

技術戦略とは?

戦略とは、何らかのゴールを実現させるための具体的な施策や意思決定のことです。

このゴールに何を置くかですが、現状は『事業計画の実現』をゴールとしています。事業計画の実現に向けて、技術の面からアプローチするのが技術戦略となります。

※『コーポレートビジョン』→『ビジョンを実現させるミッション』→『ミッションを実現させる方法 = 事業計画』と捉えており、事業計画の実現はビジョンとミッションの実現に繋がると考えています。

戦略策定の手順

① 事業計画を明確にする
② 理想と課題の洗い出し
③ 理想と課題をグルーピングし、テーマ化する
④ テーマに対し具体的な施策立案と意思決定を行う

手順① 事業計画を明確にする

まずゴールである事業計画を明確にします。
当然これは技術組織の中だけで考えるものではなく、経営層が中心になって考える事業の未来となります。なるべく数年先まで、不確定要素も含めて中長期に渡る計画だと、技術戦略も考えやすくなるかと思います。事業状況によって短期の計画しか立てられないこともあるかもしれませんが、それでも必要です。ゴールが明確になっていることが重要です。

手順② 理想と課題の洗い出し

事業計画の達成に向けて、理想と課題を技術軸と技術組織軸の両面から洗い出します。

・この強みを伸ばすことで、事業計画をより高いレベルで実現したい
・新規プロダクトでこういった機能を組み込む予定のため、〇〇という新技術の導入が必要
・競合に〇〇の分野で差をつけたい
・〇〇の技術分野に精通した人が居らず、大きなリスクとなっている
・〇〇が属人化し、人的SPOFになっている
・開発ラインを増やす必要があるが、現在のエンジニア人数では体制構築出来ない
・このプロダクトをn年でリリースするには今よりも開発スピードを上げる必要がある

等、事業計画上のイベントに合わせて考えていきます。

この洗い出しにはSWOT分析を取り入れるのも良いやり方かと思います。

手順③ 理想と課題をグルーピングし、テーマ化する

洗い出した理想と課題を似た方向性毎にグルーピングし、その中で特に注力すべきものを選びます。

次に、その注力すべき方向性をなるべく簡潔でキャッチーな言葉にワーディングします(=テーマ化)。
テーマ化は、この後に続く具体的な戦略が何を狙ったものなのかを理解しやすくすることと、社内やチームに浸透しやすくすることを目的としています。

手順④ テーマに対し具体的な施策立案と意思決定を行う

この具体的な施策と意思決定が技術戦略となります。

すぐに実現・解決出来ないようなテーマについては、そのテーマの中でいくつかのフェーズに分け、『第一段階はここまでを目指す』といったようにいくつかの段階を踏むと良いかと思います。

最後に、立てた戦略が事業計画の実現に繋がっているかを確認し、問題無ければ完成です。

注意点

弊社での失敗経験から、注意点をいくつか挙げます。

注意点① 施策は実行可能な範囲にまとめる

理想や課題が非常に沢山出て、テーマも多岐に渡り、あんな施策もやりたい、こんな施策もやりたい…みたいな状況になることが往々にしてあるのではないでしょうか?
戦略は何より実行が重要です。無理をした結果、戦略を立てただけで終わりにならないよう、組織のキャパシティに合わせた取捨選択や、実行体制の整備等が必要です。

注意点② 高い視点で考える

戦略を考えるのは、少し足を止めて事業と技術組織の未来に向き合う良い機会です。普段よりも高い視点を持って、日々の業務の中では検討・決定しないような大きな内容を考えるよう心がけると良いかと思います。
未来や組織を俯瞰して大きな決断を盛り込めると、より価値の高い戦略にすることが出来ます。

注意点③ 実行→振り返り→修正

言うまでもなく、戦略は実行するだけでなく振り返りと修正のサイクルが重要です。事業と組織の状況は日々刻々と変化していくので、それに合わせて戦略遂行における障害が無いか?戦略が意義のあるものであり続けているか?等、見直しが必要です。

GRIPHONEの事例

下記は今年11月に弊社で立てた戦略からの抜粋です。

■戦略テーマ
NEXT STAGE

■具体的な施策
横軸技術研究組織の新設
 ・TechNextラボ(基盤構築や新技術の検証と導入、等)
 ・3Dラボ(3Dグラフィックのクオリティ向上)
 ・AIラボ(プロダクトや開発フローへのAI導入)
 ・データラボ(データ分析、可視化)

理想や課題を洗い出す中で絞ったテーマの一つが『次の新規プロダクト開発に向けた準備(開発力のレベルアップとエンジニア体制構築)』でした。
それを『NEXT STAGE』というテーマに変換しています。

具体的な施策としては、複数チームをまたぐ『横軸研究組織の新設』です。
一つのチーム内に閉じていた役割を横断組織に切り出し、ノウハウの集約と展開を促進。同時にエンジニアリソースの効率化を狙っています。それぞれの技術分野における育成・採用にも効果があると踏んでいます。
それぞれの分野の開発力を『NEXT STAGE』に上げ、GRIPHONEの強みにしていければと考えています。
ちょうど新規プロジェクトが複数立ち上がっていくフェーズでしたので、良いタイミングで決めることが出来ました。

最後に

弊社では現在このようなプロセスを経て技術戦略を立てています。
事業内容や組織のフェーズ・規模によっても変わってくるかと思いますが、一つの事例としてご紹介しました。(弊社はゲームの開発・運用がメイン事業で、最近は数年かけて一つのタイトルを完成させている、という前提があります。)

これから技術戦略を立てようとしている方々の参考になれば幸いです。